ライトハンド奏法

音楽
Meanos (talk | contribs) CC 表示-継承 2.5 画像はWikipediaからの引用

エドワード・ヴァン・ヘイレンが亡くなった。

ロック史の一つが終わってしまったので、追悼の意味を込めて書いてみようと思う。

彼の特徴的な奏法に「ライトハンド奏法」がある。

ただ、「ライトハンド奏法」というのは日本だけで、本来は「タッピング奏法」というらしい。

ヴァン・ヘイレンが発明したものではなく、遡れば結構この奏法を使用しているミュージシャンはいる。

Roy Smeck

ジャズ・ギタリストのロイ・スメックという人がウクレレでタッピング奏法を披露しているが、この方が生まれたのは1900年のことである。

1:26辺りからの動きを見てほしい。左手で押弦した弦の上を右手の指でさらに押さえて別の音を出している。紛れもなくタッピング奏法である。

また、1952年にはジャズ・ギタリストのジミー・ウェブスターという人が自身の教則本において「タッピング奏法」を解説している。

Jimmie webster – a wonderful guy

ジミー・ウェブスターのタッピングは「8フィンガー・タッピング」と呼ばれたが、知名度はそれほど広がらなかったようだ。ただし、後年スタンリー・ジョーダンというジャズ・ギタリストが、ジミー・ウェブスターを進化させたような「両手タッピング奏法」によるアルバムでデビューし、こちらは有名になった。

1965年にはヴィットリオ・カマルデーゼという人がイタリアの番組でタッピング奏法を披露している。

1965年にVittorio Camardeseってイタリアのギタリストが弾いてたタッピングがヤバい (奏法の解説アリ)

(なんでもあるYouTubeがすごい・・・)

この方の動きは「タッピングによって直接音を出す」というやり方で、たしかにタッピング奏法ではあるが、エドワード・ヴァン・ヘイレンのものとは、なんとなく違うように感じてしまう。

というのは、エドワードの「ライトハンド奏法」が特殊なのは、

「1本の弦上で分散和音(いわゆるアルペジオ)を(高速で)弾いた」ということではないだろうか、と思えるからである。

前述のロイ・スメックもヴィットリオ・カマルデーゼも確かにタッピング奏法なのだが、あくまで2音のみにとどまっている。

つまり、ロイ・スメックでいえば左手で押さえたところで1音、右手でタッピングすることで2音目を出す、という感じ。

ヴィットリオ・カマルデーゼ、ジミー・ウェブスターの場合は「右手のタッピングそのもので音を出す」という感じで、むしろ1980年代にロックで流行した「両手タッピング奏法」に近い。

また、エドワード以前には、ジェネシスの「スティーブ・ハケット」というギタリストがライトハンド奏法をやっていたという話がある。

steve hackett tapping

↑これはスティーブ・ハケットのプレイなのだが、ヴァン・ヘイレンのものとほぼ同じだ。なぜこれは知名度が低いのだろう?

よく見たら違いがわかった。

スティーブは「右手の指」ではなく、「ピック」を使って3つ目の音を出しているのだ。ピックを弦に対して垂直に当ててやると、タッピングのような音がする。現在では「ピック・タップ」という手法であるが、「右手の指」を使うわけではないので、少々違う。

では、エドワード・ヴァン・ヘイレンの最も有名な「暗闇の爆撃(Eruption)」を見てみよう。

Eruption Guitar Solo–Eddie Van Halen

このうち、7:10辺りからが原曲に近いフレーズなのだが、エドワードの場合は、

左手で2つの音、それに加えて右手の音、で合計3音まで出せたため、「3和音」を同一弦上で再現できたわけである。開放弦を使用する場合はそれに加えてもう1音増やせるので、合計4つの音を出すことができて、「4和音」にすることができた。

エレキ・ギターであることもあり、音のサステインは長く、そのためにまるでピアノで分散和音を弾いているように聴こえてしまう。あるいはシンセサイザーでもよい。

あまり知られていない話かもしれないが、エドワードはもともとピアニストで、1万人もの観衆の前でピアノを演奏したこともある、という話がある。

そのため、ピアノ的な奏法をギターで行ったらどうなるか、ということを考えて不思議ではない。

また、この奏法をやりやすくするため・・かどうかは不明だが、ヴァン・ヘイレンはデビュー時から「半音下げチューニング」であった。

通常、エレキ・ギターは1弦から6弦まで、

E、B、G、D、A、E

という音程になっているのだが、これを半音下げて、

Eb、Bb、Gb、Db、Ab、Eb

としていたのである。また、弦は「細い」といわれる「ライト・ゲージ」よりもさらに細い「スーパー・ライト・ゲージ」あるいは「エクストラ・ライト・ゲージ」というものを使用していた。ライト・ゲージの1弦の太さが0.010インチであるのに対して、ヴァン・ヘイレンの1弦は0.009インチであった。

「半音下げチューニング」によって弦が柔らかくなる上に、さらに細い弦を張ったものだから、さらに柔らかくなり、軽く指が触れただけでタッピングの音が出るのである。

余談だが、「半音下げチューニング」というものを最初に始めたのはジミ・ヘンドリックスであるようだ。その時点では普及するに至らなかったが、ヴァン・ヘイレン以降のバンドは大体「半音下げチューニング」になったイメージがある。

メガ・ヒットとなったアルバム「1984」ではそれまでのアルバムよりもシンセサイザーが多用されたが、これには裏話があった。プロデューサーらは、「ヴァン・ヘイレンはキーボードを使用しないほうがよい」と判断したらしいが、エドワードは入れたがった。そして「1984」のデモ音源はほとんどシンセサイザーで制作されていたことから、プロデューサーが折れて、仕方なくシンセサイザーを使用することを認めたそうである。それがこのヒットにつながったともいえる。

もっとも、エドワード・ヴァン・ヘイレン当人の言によれば、


レッドツェッペリンの楽曲「ハートブレイカー」でハンマリング・オンやプリング・オフを用いる箇所を右手の人差指を左手の6本目の指のように使うことで奏法の着想を得たと語っている。


と、いうことで、次はレッド・ツェッペリンの「ハートブレイカー」を見てみよう。

Led Zeppelin – FULL Heartbreaker – Madison Square Garden 1973

これは1973年のライブのものだが、この2:21からの演奏を見てほしい。

「ハートブレイカー」の中では、バックのリズム隊が休みになって、ジミー・ペイジ(ギター)一人のソロだけになるところがあるのだが、ここのことを言っているのではないかと思われる。

特に2:43からのフレージングだが、これはライトハンド奏法ではないのだが、得られる音は似ているといえば似ている。ここは開放弦および左手の2本の指を使用して、合計「3つの和音」を出していることになるわけで、これがエドワードの「ライトハンド奏法」着想につながったのかもしれない。

そして、そういう言動があったということは、エドワード以前の「ロイ・スメック」、「ヴィットリオ・カマルデーゼ」「ジミー・ウェブスター」「スティーブ・ハケット」らのことはエドワードは知らずに、独力で「ライトハンド奏法」を編み出した可能性が高い。

最後に、エドワードの発想から「8フィンガー奏法」を編み出した、ナイト・レンジャーのジェフ・ワトソンのプレイを見てみることにする。

Jeff Watson guitar solo from Japan tour '83

0:43辺りのところがわかりやすく見える。

その後の時代になって、タッピング奏法を専門に行う、「スティック」という楽器が開発された。

While My Guitar Gently Weeps, Chapman Stick

これが「スティック」なのだが、両手でタッピングできるような構造になっている。もっとも、こういう楽器だからして、ステージ上で激しく動き回る演奏は望むべくはないので、ロックには向かなそうに見える。


参考資料:Wikipedia「タッピング奏法」「エドワード・ヴァン・ヘイレン」「ナイト・レンジャー」「ジェフ・ワトソン」、TONES、TUNES&TOOLS【エイトフィンガー奏法】 ギターの指板が鍵盤化 【ナイト・レンジャー】

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