音楽モノの作品である。
レビューに、「YouTubeに劇中歌がアップされている」とあったので読んでみる気になった。
主人公は「宅録ぼっち」を自認する小沼拓人君。
「宅録」というのは「自宅レコーディング」のことで、自分で作った曲や他人の曲など、全パートを自分で多重録音することをいう。以前は機材が高価であることと、「マルチ・ミュージシャン(複数の楽器を1人で演奏する演奏家)」になることが敷居が高かったことなどがあり一般的ではなかったが、最近はやろうと思えばスマホアプリや安価なPCソフトで多重録音はできるようになり、また、腕がそんなにうまくなくてもいいならマルチ・ミュージシャンといえる人も大分増えた。「初音ミク」ブームもそれに拍車をかけたように思う。なぜ「ぼっち」というかといえば、「他の人と関わらなくてもできるから」である。
拓人君が「宅録ぼっち」になったのは、天才美少女シンガーソングライターといわれた「Amane」の歌を聴いてからである。雷に打たれたかのように、彼は曲を作りレコーディングし続けたが、その一方、Amaneは理由も不明のまま活動休止してしまう。
そして拓人君が進学した高校の同じクラスに、そのAmaneはいた。
ただ、「歌えなくなって」いた。ネットで誹謗中傷されたことで、「自分の歌が歌えない」のだそうだ。他人が書いた歌なら歌えるという。
そんなとき、たまたま小沼拓人君が自作の曲をスマホで聴いているところに市川雨音(Amane)が遭遇して、「その曲をわたしにくれないかな?」と頼む。「自分で作った歌でなければ歌えるかもしれないし、その曲はすごくいい」と言われた拓人君は、
Amaneと共に作品を作る気になるのだが、
作詞が壊滅的に下手だった・・・。
そんな折、同じくAmaneの曲を聴いたことが契機となって作詞に目覚めた吾妻、拓人くんの幼馴染でありながら絶縁状態になっていた沙子、この4人で、「プロジェクトAmane」を始動していく・・・というのが大まかな話。
音楽の話を、漫画でもラノベでもやるのは、話が面白いかどうかということの他に別の問題がある。
それは「いかに専門用語を使わずに、状況を読者に理解させるか」ということだ。
専門用語を簡潔に紹介しながら話を進めなければならないが、これがなかなか難しい。「りゅうおうのおしごと!」のように、細かいルールをあまり語らずに推し進めるのも手であるし、この配分を間違えてしまうと「音楽解説小説」になってしまう。「のだめカンタービレ」などはそういうバランスがとてもよかったように思う。この作品も、あまり音楽用語の説明に終始せずにストーリーの配分を行っていた。
読み終えた感想としては、
青春
だし、
バンド
だなぁ~~と思った。特に学生時代のバンド活動はよい。
自分も学生時代にやったが(パートは当時ドラム)、本番が近づくにつれて次第に腕が動かなくなり、当日は包帯をぐるぐる巻きにしてミイラのようになって叩き、しかもあまり叩けなかったという苦い思い出がある。その後「どうもドラムは独学ではいかんようだ」と思い、教室で習いはじめ、その後ライブでドラムを叩く機会もあり、ちゃんとリベンジしたというのは後日談。
拓人君は全パート演奏できるが、ドラム人口が圧倒的に足りないので、必然的にドラムになる。
そして、彼は、「ぼっち」から、女性3名(プラス2名)に囲まれる日々に突入したわけだが、
まるで
鈍感難聴ラノベ主人公
であった。もっとも、今まで異性に囲まれることがなかったのだから、そういった「空気を読む」とかいうのはできないのが普通だと思う。特におかしいことではない。
「プロジェクトAmane」はAmaneのリハビリのようなもので、最終的には「Amaneが自分の歌を歌えるようになる」のが目標だと思うが、これがどのように進んでいくかを読者は見守ることになる。
この作品で面白いのは、「1曲ができあがるまで」を詳細に追っているところである。
作中曲『平日』は、もともと拓人君が書いた日記のような、歌詞にはならないような文章であったが、これが次第にブラッシュアップされて、実際の「音楽」になるまで、を追っているのだ。
↓これが『平日』である。
左から、沙子(ベース、幼馴染)、拓人(ドラム、主人公)、雨音(ギター&ボーカル、ヒロイン)
である。
そしてこれが「Amane」名義のデビュー曲、『わたしのうた』である。
この歌を出したあと、Amaneは歌えなくなった・・・という曲である。
なお、書き忘れたが、この作品は、
第26回スニーカー大賞〈優秀賞〉受賞作
である。
1巻完結モノかと思っていたのだが、この先を読みたくなってきた。
2巻が出たらいいなあ。
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