牛丼で有名な吉野家だが、一度倒産している。
倒産が1980年だったこともあり、あまり知られてはいないかもしれない。
このときのエピソードがまた心に残る話なので、書いてみようと思う。
吉野家は、最初から人気があり、イケイケドンドン的に店舗を増やしていった。
しかし、急激に店舗数を増やしたために、原料の供給が追いつかなくなってしまった。
困った吉野家は、「タレを粉末に、牛肉を冷凍に」切り替えて対処したが、これが不評だった。
「味が落ちた」のだ。味が落ちた食べ物屋は客離れが早い。店舗数を増やしたこともあって、全ての店舗で客離れが加速したものだから、倒産の憂き目にあった。
ここで、支援を名乗り出たのが西武グループである。「吉野家のブランドはまだ強い。再生すると確信している」と出資することになった。
とはいえ、まず会社を立て直さなければならない。
希望退職者を募ったところ、予想よりも多めに希望者がいたため、「無理なリストラ」を行わずにすんだそうだ。
店舗を全てたたみ、最初の1店舗だけに戻った吉野家は、これを教訓とした。つまり、
「食べ物屋は味が全てだ。他のものは重要ではない。味が全てに優先する」と。
そこで、最初の店舗でじっくりと味を改良していった。離れたお客さんも戻ってきて、経営は次第に軌道に乗ってきた。
しかし、それからしばらく店舗数は増やさなかったという。
その後、慎重に店舗を増やすことになるのだが、その後、悪夢のような「狂牛病事件」が起きた。
ここで吉野家は信じられない決断をした。
「アメリカ産牛肉が調達できない以上、牛丼は店では出さない」と。
牛丼屋が牛丼を出さずに、一体何を出すというのか!? しかし、これも理由なくやったわけではない。
「牛丼屋は味が全てなんだ」という主義・信条があったからである。
結果的に、長い「狂牛病によるアメリカ産牛肉不在の時代」が終わり、輸入再開してから、ようやく吉野家の牛丼は復活した。
今でもアメリカ産牛肉には問題があるという人もいるし、価格競争で一時期ダンピング(値下げ競争)がすごかったときもあったが、
現在では価格競争もおさまり、昔の値段にかなり近い価格になっている。
うろ覚えだが、昔の吉野家では、牛丼並と味噌汁で460円だったと思う。現在462円なので、当時なみの値段だ。
倒産から再生した吉野家の、真摯な姿勢には、何度思い出しても感動を禁じ得ない。
参考資料:牛丼100年ストーリー(吉野家HP)
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