あなたのことならなんでも知ってる私が彼女になるべきだよね (ファミ通文庫)

ラノベ

というのを読んだ。

これは、

すごかった

引き込まれて一気に読んでしまった。

タイトルからして、「超天才な少女によるヤンデレ話」かな? と思ったのだが、当たっているようでもあり外れているようでもあり。

どこまで書いたらよいか、のガイドラインのために、とりあえず「あらすじ」を引用してみよう。


「好きな男の子の心拍に合わせてスマホが震えるの最高」
全国模試1位、高校生ながらその腕で荒稼ぎしている凄腕プログラマー。けど人間嫌いで誰とも喋らない久城紅は、隣の席の宮代空也が大好きだった。初めての感情に戸惑う紅は、その高い技術で空也の情報を集めることが趣味になっていた。集めた情報をもとに十日に一回、空也に話しかけるせつない日々。しかし空也は“人の感情が色で見える”という特殊能力の持ち主で、紅のひそかな好意に気づいており――! 気持ちが言えないハイスぺ女子×恋に不信な特殊能力男子のすれ違いラブコメ!


主人公の宮代みやしろ空也くうやは画家である。高校生ながら依頼をうけて絵を描いている。肉体が弱く、命を削るかのようにして絵を描く。

その空也君は「赤色」が、とある事情で使えない。彼は「赤色」を使わずに絵を描く。それを見た人は言い知れぬ感動を覚え、ときには涙したりもする。だが彼は「赤色」を使えなくなったあたりから、「他人の感情が色で見える」ようになった。

彼は「赤」を恐れる。そして、感情の中でも彼に見える「赤色」は「愛情」を意味する。つまり彼は「愛情」を恐れるのだ。

ヒロインは二人いる。「あらすじ」に出てきた九条くじょうくれない、そして空也の幼馴染(年下)の吾道あどう翠香すいか

表紙からして九条さんがメイン・ヒロインに見えるし、事実、序盤は九条さん視点で話が進む。しかし、読み進むにつれて妙なことに気がつく。

それは翠香の「異常なまでの心配性」だ。彼女は、全身全霊をかけて空也を守ろうとする。

「幼馴染にしては何かおかしいぞ?」と思うまでに時間はかからない。

吾道家は武術の家柄であり、女系一族である。その吾道家の女は、代々「全身全霊をかけて男を守る」という本能・・(?)があるようだ。

最初は九条さんの「デジタル・ストーカー」気味に引いてしまうのだが、

(彼女は、空也君のありとあらゆるデータを非合法に収集している。他の誰かに迷惑をかけているわけではないが、空也君のこととなると手段は選ばないのである)

イラストで見かける翠香さんの目が少々狂気的な気がするのにも次第に気がついていく。

さて、九条さんは空也君の絵に魂を射抜かれて、彼のことを追いかけるようになるが、デジタルの天才で日夜荒稼ぎをしている彼女は、例によってコミュ障であり、空也君と話したくてたまらないのに、10日に一度くらいの頻度でしか話せない。

序盤は、

  • 九条さんはイカれた人
  • 翠香さんは良識的な人

という対比で描かれるが、その構図は途中から崩れていく。

話がジェットコースターのように変化していき、視点も変わっていく。

空也君が日々何を見てどう考えればそういう絵になるのか、その絵に救われた人がどれほどいるのか。

この話は「クリエイティビティ」についての話でもある。

芸術論であるようにも思える(このあたり「さくら荘のペットな彼女」を思い起こさせる)。

いくつもの主題が同時進行で進んでいく、その様が「ジェットコースター」を感じさせて、一瞬たりとも目が離せない。

ということで、最近にしては珍しく1日で読み終えた。

あまり書くとネタバレになるのでここまでにしておくが、

宮代空也、九条紅、吾道翠香の3人がどういうエンディングを迎えるのか、それは是非とも本編を読んでいただきたい。

読んで損はない作品。

読み終えた後に残るのは、

感動

だ。

・・・ところで作者の藍月あいづきかなめ先生は「自分の本の感想をネット上で探してニヤついている」そうなので、これも見つかるのかなー? 読んでくれると嬉しいなあ。

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